梓川ふるさと公園の怖い話
心の奥に閉じ込めた自分
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猿に注意
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この前、新潟に行ったときに聞いた話。只の作り話と言っていたけど、どうしても気になって、メモにしておいたもの。新潟では、多分、珍しいと思うけど、その飲み屋さん、地下に入っていく。結構しっかりした作りで、建物の上物を見ていると想像できない広さと言うか深さと言うか。反響を気にしてか、どのテーブルも話声はぼそぼそ。地元で合流した人の話もぼそぼそ、ぼそぼそ、と始まった。
新潟は大きな町だが掴みどころがない。海、港、運河、川、取り残された陸地、橋、また海。山は遠い筈なのに近くに感じる。だらだら続く街並みは却って温かいもてなしに感じる。
夜は表情を変える。人通りは極端に少なくなる。奥深く闇の中で眠っていたものが動き出す。人のものでない気配が漂ってくる。
小さな影は川べりから這い上がってくる。そのまま、老人の風体になって歩き出したと思ったら、例の居酒屋の地下に入っていく。
無表情な老人は、いつものテーブル、いつもの席に着く。誰かが合図を送った訳でもないのに、ぼそぼそと、、しかし、耳のすぐそばで話しかけられたようにはっきりした声で、話し始めた。視線はどこか遠くを見ているかのように。かすかな記憶を一つ一つ確かめるように、ぼそぼそと過ぎ去った時間を紐解き始めた。
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地下水脈

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梓川ふるさと公園
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唐突に公園
山間のこんなところに
人の姿は全く見えない
霊気だけが木陰から何かを窺っている
もう何年も
怖がって誰も近寄らない
*
お日様が上にある時は
誰も気づかない
誰も気にしない
しかし
午後少し遅くなると
急速に影が忍び寄る
山が深く暗くなるのが早い
それ以上に早く冷気が下りてくる
聞こえていたはずの子供たちの声が
ピタとも伝わって来ない
魔の時刻
夕方6時
黒いものが動き始める
その影を見たものは
身動きが出来なくなる
不思議な形の石になって
公園の住人になる
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誰もがフィクションと言って済ましている
昼は笑っていられるが
日が落ちたら笑いがひきつる
落武者の話を急に思い出す
村人が山間に追い詰めた時の話
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取って付けたように現れた山間の公園
物語は過去のもので済まされなかった
村人が交わした約束
高齢化社会では果たせなくなってきた
*
命の代償に
子どもの声を聞かせる
*
子どもを連れて行っても
4時には引き上げます
忘れ物をしても取りに帰ることはしません
*
*
梓川の流木を見たことはありますか
奇妙な形だと思いませんか
逃げ帰って来た子どもたち
*
日本海を流れる子供たちの魂
三月
ふっくらしたホタルイカ
夜になると光が宿る
*
ホタルイカは富山湾に限らず
日本海側の結構広いエリアで冬から春にかけて水揚げされる
でもなぜか富山湾のものが美味しい
信州の山からの流れは
越後で海に入り
なぜか南下する
*
梓川の流木を家に飾る人がいる
取り付かれたようにホタルイカを食べる人がいる
子供のころに遅くまで遊んでいて
知らぬ間に魂を抜かれた人たち
単調な響きの松本ぼんぼん
放心したように踊り続ける
呪われたような真夏の夜がよみがえる
*
今でも
夜、耳をすませば
誰もいない筈の公園から
大勢の子ども声が聞こえてくることがある
*
上高地
バスの車窓から林間に目をやると
木陰からニホンザルを姿を見せることがある
その暗い小さな影に一瞬サルでないものが混じる
気付く人は少ない
子ザルに見えた中に人の子供の顔
悲しげな視線が突き刺してくる
上高地の夕闇は一気に降りてきて時を止める
*
昨今のオーバーツーリズム
上高地はマイカーで入れない
家族連れはバスに乗り換えるか、手前で駐車して散策する
観光地からそれたただ広いだけの公園にも観光客が迷い込む
山奥から何かがじっと見ている気配
*
北海道と同じように
標高の高い地域の春も一気に姿を現す
我慢していたかのように梅が咲いて
こぶしの白い色が追いかけてくる
桜は開花したと思ったら瞬く間に白とピンクの吹雪に変わる
木蓮の大きな花びら
アメリカハナミズキの賑やかな様
ゴールデンウィークが近づいている
子どもたちがやってくる
*
ゴールデンウイーク終盤
上高地へ向かうバス
大勢の子供が乗っている
急ブレーキ
運転手は何を見たのか
車を止めて外に出る
バスの前を横切った猿の群れ
足早に去っていく
取り残された猿と思ってみたものは
一人の男の子だった
怯えたような目で見る 先はバスの中の子供たちだった
口元をゆがめ、
何か言葉を発したかとおもったら
その場に倒れ込んだ
止まっていた時が流れ始めた
運転手は我に返る
何もなかった
何も見なかった
バスに戻り運転席に戻る
先程まで騒いでいた子供たちは
誰一人声を上げない
バスが動き出した
取り付かれたようにアクセルを踏む
幅の狭いトンネルが口を開けていた
*
次の日
そのバスは川底にあった
人の姿は消えていた
*
大捜索で一人の男の子が見つかった
バスの運転手の前で倒れた男の子
でも発見されたのは梓川ふるさと公園
信州大学へ救助ヘリで運ばれた
衰弱した身体
コトバにならない言葉
譫言のように言葉が零れ落ちる
愛する家族への思い
彼は語り始めた
*
長く生きてしまったことに気付いた
*
鎌池
一周するのに30分も掛からない小さな池
白馬の近くにあるが
訪れる人は少ない
池を回っていると気付くこと
方向が分からなくなる
あちこちに樹海に伸びる細道
獣道か
子どもが行方不明になった話は聞いたことがない
そもそも子どもが来ること自体が珍しい
ある日
透明で宝石色の池に
子供の遺体
表情は穏やか
少年は時を超えて
会いたい人に会えたに違いない
少年の遺体が引き上げられると
親子連れの猿影
樹海に消えていった
*
こんな公園
以前は無かった
使い道のない土地で強欲が悪知恵を働かせていたら
世間に合わせて”ふるさと公園”
公園にするのに国から助成金がもらえて
21世紀事業と言えば格好よく響く
この辺は日当たりの悪い北と東に向いた斜面のどん詰まり
誰も近づかない
使い道が無いから公園?
現代の合理主義かな
あるいは強欲の錬金術?
昔
ここに最後逃げ込むしかなかった人がいたら?
この辺の木や石や土を掘り起こしたら ?
封印されていた約束が蘇ったら?
時が再び刻み始めた
*
ふるさと創生事業に群がる強欲
梓川アカデミア館
梓川ふるさと公園
眠っていた呪いが目を覚ました
*
落武者の中に
子連れの落ち武者がいた
子どもには無理と言われても
塩尻峠を越えた時は大人たちも歓喜した
松本平
一見すると緑豊かで平穏だった
敵対する者はいる筈がない
落武者の列を遠目に見る村人
子ども 女 老人
警戒心は両方にあった
その内、村の子供らの笑い声が緊張を解いた
落ち武者の子供らも村の子供と遊び始めた
村人の迷惑にならないように
落ち武者は山奥に入る
山の神のことを知る人はいなかった
村人が落ち武者を呪いの地に追いやったことになった
悪意は無くてもだまし討ちの形になった
山の神は子どもだけには手を出さなかった
*
子どもが突如視界から消える
普通の事件事故のニュースのように流れてくる
やがて無事生還できる子もいれば
戻ってこれない子もいる
時のはざまに落ちた子供は存在を伝えることが出来ない
今まで聞こえていた子どもの声は本当は何だったか
其時は既に手遅れだったのかも知れない
時空のゆがみが表出する一瞬だったに違いない
*
時間の狭間(はざま)に子どもが落ちる
大人が目を離した瞬間に
子どもの時計が回り始め
歪みが出来る
時の狭間が姿を見せる
夢中な子どもが狭間に吸い込まれる
母親の声が届く
歪みが消える
もし母親の声が届かなかったら
子どもは遠い旅に出る
子どもの夢中は理屈の先にある
その声を聞くことできる母親だけが
子どもを救うことが出来る
*
落武者
戦いの場からその家の主だけが落ちていくのではない
一族郎党の夜逃げのようなもの
幼い子どもが問題になる
預ける先が見つからなければ
連れて行くのだが
足手まといになるのは分かっていること
子どもの不幸を想像するのは難くない
信州に続く道端に小さな地蔵が多いと気付く人もいる
*
親知らず子知らず
京を追われて
越の国に逃げる
阻む海岸線に
こういう名前が付けられている
子どもの声が波の音でかき消される
海から子供の声が聞こえてくる
錯乱する母親
夕闇が口を開けている
子どもの声を振り払う
足を速める
襲い掛かる波しぶき
波しぶきの先が子どもの小さな手に変わる
母親の足が止まる
倒れ込む
朝、
目を覚ます女
波は穏やかになっていた
目の前の山を越えれば信州
松本平に導く道に入る
南ルートを逃げた一族に合流できる
遠くから子どもの声が聞こえる
子どものぬくもりが蘇る
持っていたものを捨てて
海に向かって歩き出す
大事なものが沈んでいる海へ
本当に大事なもの
海の底で子供の手に触れて
心が救われるのが分かった
子どもの声が女を包んでいた
*
春が近づいて
ホタルイカ漁 が活発になる
夜に出ることもある
その日の夜
光の中に少し様子が違うものがある
深い青色
光は抑えられている
ほんの一瞬
目が合ったような錯覚に襲われる
漁師は漁を早めに切り上げて
家族のところへ急ぐ
漁からいつもより早く帰った父親に
何時より強く抱きかかえられた子は
嬉しくて思い切り抱きしめ返したが
はっとして力を抜いた
子どもにしか分からない
深い悲しみが伝わって来た
涙をためた子を見て
父親は満足そうにしたが
同時に不安な気持ちに襲われた
漁師は夜の漁を躊躇うようになった
夜の富山湾
観光客相手の漁師しかいなくなった
*
鎌池に沈む少年は
生きているかのように美しく
目を見開いていた
視線の先は彼方の記憶を留める
光に満ちた世界だろうか
少年の水死水難事故の話は
直ぐに広まって直ぐに収まった
弔いのために山奥に入った僧侶は
そのまま帰ってこなかったが
探しに行こうと言う人はいない
少年のことはタブーになった
鏡池に近づくこともしない
鎌池は、温泉客、観光客、風景写真家、昔も今も、来る人は限られている
ときどき道を間違える人が出て騒ぎになる
村人の誰も見ていないのに
少年の声は 全員の耳に残っていた
子ども連れの観光客が来ると
耳を澄ますようになった
*
児童公園が閉鎖された
保育園が廃園に追い込まれたところもある
それは本当に子どもの声だったのか
強欲には子どもの姿を見ることが出来ない
無駄に遊んでいる土地に見える
強欲は連鎖する
強欲が子供の声を奪う
子どもの声を返して欲しい
子どもの声を閉じ込めるな
その町も少子化が進む
少ない子供を閉じ込める
子どもは大人になって子どもを裏切る
そういう大人を見ている山奥からの視線に気づかない
でも
子どもの声が
夜になって少しずつ近づいてくる
子供と言う過去を捨て大人に
夜の闇が
子ども声を届ける
それはいつかのあなた
*
名誉教授のクレーム
子どもの声がうるさい
この老人は子供の頃は信州という地に憧れていた
勉学で望みを叶え
更に信州に移り住み望みを叶えた
公園近くにマイホームも
本当に子ども声が煩かったのか
押し殺して来た遠い自分の中の心
もっと自由だった本当の自分を思い出したのか
自分の大切な心を鎮めるためのクレームか
其れさえも本人は気付いていない
*
公園は閉鎖され
洒落た住宅が立ち並ぶ
住人が過去の話を知ろうが知るまいが
やがて
住人の心のドアをたたく子ども声が訪れる
それは
公園で遊んでいた子どもたちのものか
住人となった人の過去から訪れるものか
*
信州もまた有数の観光地の一つ
訪れたことのある人も少なくない
進学進級を前にした3月は少人数の旅行が多い
興味本位でスーパーに入ると並んでいる食材の豊富さに驚くかもしれない
物流網の発達で日本中のものが並ぶ
都市部のスーパーと変わらない
関東、東海、北陸の近海物が鮮度良く並ぶ
その中にホタルイカが並ぶ
ホタルイカを好む人なら気付くこと
ふっくらと大きさも形も、何よりも鮮度がいい
どうしてこの信州の山奥で?
わざわざ選ばれて運ばれてきたような
何となくの違和感
すると横から手が伸びてきて
パックを買い物かごに収める
無言無表情で去っていく老人
人ごみに消えるのを待って
漸く我に返る
子供の頃の感受性が蘇る
小さなささやき声
スーパーの外に出る
夢中で買った信州の食材を使ったお土産用の菓子類
中に手にした記憶のない1パックのホタルイカ
明朝の帰りの列車の時刻を確認する
今どきは何もかもスマホ
*
*
誰にも子どもの時代があった
発声できたかどうか分からなくても
子どもの心、子どもの声を持っていた
大人になる
成長する
自分を殺すことなの?
子どもの声が騒音になる
世界中で戦争がやまない
今でも
ウクライナ、ミャンマー、アフガン、ガザ、 イラン、
子どもを殺す大人たち
黙って見ている大人たち
時代も場所も状況も違うから混同しないように
と
知ったか爺が切り捨てる
無表情のこの老人は恐らく自分の子供時代を真っ先に切り捨てた
何も変わっていない
何も変わることが出来ない
*
*
沖縄
洞窟に逃げた
声を上げる子ども
聞き耳を立てるアメリカ兵
口を塞ぐ大人
子どもの声が消えた
邪悪は兵士の顔を借りて言う
子どもの声を消したのはその子の母親だ
火炎放射器のレバーを引いた
*
落武者
一族郎党
逃げ延びる一団
子どもの声がかすかに届くが姿は
女たちの辛い表情
旅の疲れだけではない
人形のようなものを背にしている
足手まとい誰かが口にして
子どもの影が消えた
声だけが耳に残った
子どもの声を人形に託した
本当に大事なものを間違えている
大人にも言葉にできないこと
何処で間違えたかと言う疑問を
空腹と疲労がかき消した
*
山の神
最初は山歩きをしていた人が
奥まった場所で道に迷って
目印に石を重ねただけだった
あちこちに小さな目印
夜になると役に立たない
丁度、奥深い山の中央、登りと下りが交差する場所がある
ここを間違えると帰れなくなる
まるで、この世とあの世の境界のようだった
誰かが帰れなくなった魂を弔うように
小さな祠を作った
みすぼらしくても
道に迷ったものには光り輝く
誰もが手を合わせるようになった
誰となく山の神というようになった
山は高さより深さが怖い
平坦に見えて安心して深く入ると帰れなくなる
親子連れは平坦さに油断する
小さな祠に子どもの名前が書かれるようになった
古くかすれてしまった名前の上に新しい名前が書きこまれる
信州の山は今も高く美しい
登山を楽しむ者たちの事故があるとニュースで話題になる
高山を取り囲む森や林の奥深い迷路
ニュースにもならない
信州の森には小さな祠、小さな地蔵があちこちにある
一つ一つが子供を守ろうとしている
醜い大人たちが森を破壊し、祠も地蔵も重機で歯化するまでは
*
謎(なぞ)
記憶をたどっても分からないことが色々ある
その一つが
上高地の少年と鎌池の少年
同じ人物なんだろうか
上高地の話はリアルだけど
鎌池は 情緒的、幻想的、曖昧でどこかべ世界の話に聞こえる
でも時空のどこかで繋がっているように感じる
そして、
未だ明かされていない物語があるように。
*
謎(なぞ)
子どもの姿が見えないと必死で探す親
一方で
子供が訴えている声に 耳を傾けない親
本当の愛を奪うかのような強欲の正体は何だろう
人は社会の入り口に立って
大人になろうとして
代償として一体
何を差し出しているのですか
子どもの声を閉じ込めることですか?
*
子どもの声が不都合なものの正体は?
*
成長して失うと言う自己矛盾
*
答は誰でも知っている
人が戦い抜くために
文化遺伝子を取り込んできた
人の敵はもういないのに
文化遺伝子は自己増殖を止めない
人は既に手繰られる存在
*
この矛盾に気付く機会を与えられても
気付くのは子どもだけ
*
落武者
京を逃れて信州に向かう
北回りは海に沿って
南周りは木曽を抜けていく
盗賊の多い南周りは男ども
比較的落ち延びやすい北回りは女どもと子どもら
信州の地で落ち合うことを誓って
旅に出る
信州には石標や地蔵が多い
末の時代になっても再会を果たしたいと言う思いだ
風の音、川のせせらぎ、鳥のさえずり
小さな地蔵は耳を傾けている
積んであるだけの石たちも耳を澄ましている
*
ペット
ペットは子どもの代用?
支配する対象としてペットを見る人
素直な純粋な気持ちの存在として見る人
ペットと接することで自分が失ったものに気付く人もいる
人は自分たちが長い時間をかけて失ってきたものに
本当に気付けるだろうか
その気付きは行動を変えるだろうか
生きるため、家族を守るためと言って
自分や家族の大事なものを置き去りにしてしまった
生きるためと言って、人を殺し、子供まで殺している
自分だけはペットで癒されているから大丈夫なのか
*
子どもの声が届かない本当の理由は分かりますか?
深海魚のメギス。正しくはニギス(似鱚)。白身魚で形も味もがキスに似ているのでメギス。北陸の特産と言ってもいい。目が大きいので目ギスとか。
不思議なことに、このポピュラーとも言えない奇妙な魚が信州に運ばれてくる。寒さが抜けきらない春先。新鮮なメギスが当然のように、まるで里帰りをするかのように、信州の山奥に運ばれてくる。
ローカルスーパーの鮮魚売り場。メギスとホタルイカが隣合わせに並ぶ。微妙な空気感に気付く人は少ない。多くの人には、無感心なエリア。
しかし、一部の人は争うように数パック纏めて買う。取り付かれたような表情の老人たちだ。老人たちは、自分が今いる場所も時代もはっきりしない。子どもだったころを思い出そうとしていることだけは分かる。
今年も塩の道を伝って旬のメギスが運ばれてきた。
海の底でメギスが見たもの
大きな目に涙が浮かんでいたのは悲しい話だったに違いない
*
山の神の悲しみ
山の神の怒り
人が山へ入る理由は様々
人は山を恐れていたし、大切にしていたし、感謝もしていた
強欲は奪うことしか考えない
強欲には感謝はない
用済みと思えば山に捨てて知らん顔
強欲は年を重ねて動けなくなった猟犬を置き去りにする
血のつながりが無い子供を置き去りにする
自分の親さえも山深く置き去りにする
山の神は一つ秘湯の悲しみを拾い上げ自分の背に担ぐ
山の神は怒りを胸にするだろうか
山の紙もまた悲しみとなって一体化する
怒りではだれも救えないことを知っている
*
森の樹木を切り倒して
太陽光パネルを並べる
人の道を迷うさまが見える
心を失った結果
森で動物や植物と遊んでいた子ども
社会人になって戻ってきて
木を切倒す
*
*
子どもの声を聞かずに自分の強欲を優先させた母親
母親の邪心が若い夫に入り込み非情の手を下した
この母親には涙を流す資格もない
母親こそが子殺しの真犯人
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少年は突然の侵入者に驚いた
母親が連れてきた男の目論見は、しかし、瞬時に見抜くことが出来た
幼いながら家を守ろうと必死になった
少年の心配を母親に伝えたのは誰か分からない
少年が同居する祖父母だったか
愚かな母親は子どもの疑いを夫に伝えた
我が子の気持ちを軽んじるだけで済まないことに気付かない
子どもは何度も母親から裏切られていた
卒業式
子どもが集う最後の日
子ども声が届けられたかもしれない日
声は届かなかった
*
京都
不思議な場所
落武者の出発点
落武者と家族の葛藤
丹後は京都の奥
日本海へ通じる
富山ほど有名ではないが
ホタルイカが辿り着く
*
母親に狂気を蘇らせたのは
語られない理由があった
少年が命を落として漸く
母親の耳に子ども声が届き始めた
本当に大切なもの
母親は今
心の奥深くに
仕舞い込んで
溜息を吐いた
*
散骨
月の夜
安曇野市
梓川の隣を流れる黒沢川
満開の桜が夜空に浮かび上がり吸い込まれる
人影は少ない
ここの桜を楽しむ人は地元の人
それも両岸をゆっくり往復して楽しむだけ
橋が渡っている場所では、橋の中央に立ち下流の行く末に目をやる
よる、桜の花びらを川にそっと落とす人がいる
桜の花びらの下に小さな骨
祈りと願いを込めて砕いた骨は小さな粒になっている
よく見ると
花びらを撒く人が他にもいくつか
犀川から信濃川
その向こうの日本海
桜の花びらと砂粒の骨が向かう先
昔、守ることが出来なかった子供を迎えに行く旅の始まり
小さな声が上がる
時が流れ始める
流転の再起動
しかし
※