梓川ふるさと公園の怖い話


梓川ふるさと公園の怖い話

心の奥に閉じ込めた自分



猿に注意


目次

子どもの声が聞こえない

梓川ふるさと公園の怖い話

目次

プロローグ

梓川ふるさと公園

流木とホタルイカ




可憐な姿の「カタクリ」は「春の妖精」と呼ばれ知る人にはファンも多い。環境破壊で生息域も狭まっていて貴重な存在。春になるとその決まった場所を訪れる老夫婦。若い頃に子ども亡くした記憶をたど栄、カタクリの無事な姿を見て心を慰める。山でカタクリに出会った人はそれぞれの神話「Mythos」を作り大切にする。

プロローグ:


新潟


この前、新潟に行ったときに聞いた話。只の作り話と言っていたけど、どうしても気になって、メモにしておいたもの。新潟では、多分、珍しいと思うけど、その飲み屋さん、地下に入っていく。結構しっかりした作りで、建物の上物を見ていると想像できない広さと言うか深さと言うか。反響を気にしてか、どのテーブルも話声はぼそぼそ。地元で合流した人の話もぼそぼそ、ぼそぼそ、と始まった。


新潟は大きな町だが掴みどころがない。海、港、運河、川、取り残された陸地、橋、また海。山は遠い筈なのに近くに感じる。だらだら続く街並みは却って温かいもてなしに感じる。


夜は表情を変える。人通りは極端に少なくなる。奥深く闇の中で眠っていたものが動き出す。人のものでない気配が漂ってくる。


小さな影は川べりから這い上がってくる。そのまま、老人の風体になって歩き出したと思ったら、例の居酒屋の地下に入っていく。


無表情な老人は、いつものテーブル、いつもの席に着く。誰かが合図を送った訳でもないのに、ぼそぼそと、、しかし、耳のすぐそばで話しかけられたようにはっきりした声で、話し始めた。視線はどこか遠くを見ているかのように。かすかな記憶を一つ一つ確かめるように、ぼそぼそと過ぎ去った時間を紐解き始めた。



地下水脈







 

梓川ふるさと公園

 




/

梓川ふるさと公園

/


唐突に公園

山間のこんなところに

人の姿は全く見えない

霊気だけが木陰から何かを窺っている

もう何年も

怖がって誰も近寄らない


*


お日様が上にある時は

誰も気づかない

誰も気にしない

しかし

午後少し遅くなると

急速に影が忍び寄る

山が深く暗くなるのが早い

それ以上に早く冷気が下りてくる


聞こえていたはずの子供たちの声が

ピタとも伝わって来ない

魔の時刻

夕方6時

黒いものが動き始める

その影を見たものは

身動きが出来なくなる


不思議な形の石になって

公園の住人になる


/


誰もがフィクションと言って済ましている

昼は笑っていられるが

日が落ちたら笑いがひきつる

落武者の話を急に思い出す

村人が山間に追い詰めた時の話


/


取って付けたように現れた山間の公園

物語は過去のもので済まされなかった

村人が交わした約束

高齢化社会では果たせなくなってきた


*


命の代償に

子どもの声を聞かせる


*


子どもを連れて行っても

4時には引き上げます

忘れ物をしても取りに帰ることはしません


*



 

*

流木とホタルイカ




 


梓川の流木を見たことはありますか

奇妙な形だと思いませんか

逃げ帰って来た子どもたち


*


日本海を流れる子供たちの魂

三月

ふっくらしたホタルイカ

 

夜になると光が宿る


*

ホタルイカは富山湾に限らず

日本海側の結構広いエリアで冬から春にかけて水揚げされる

でもなぜか富山湾のものが美味しい 

 


 

信州の山からの流れは

越後で海に入り

なぜか南下する

 

*

 

松本ぼんぼん

 




 


梓川の流木を家に飾る人がいる

取り付かれたようにホタルイカを食べる人がいる

子供のころに遅くまで遊んでいて

知らぬ間に魂を抜かれた人たち


単調な響きの松本ぼんぼん

放心したように踊り続ける

呪われたような真夏の夜がよみがえる


*


今でも

夜、耳をすませば

誰もいない筈の公園から

大勢の子ども声が聞こえてくることがある


*

上高地の少年

 

上高地

バスの車窓から林間に目をやると

木陰からニホンザルを姿を見せることがある

その暗い小さな影に一瞬サルでないものが混じる

気付く人は少ない

子ザルに見えた中に人の子供の顔

悲しげな視線が突き刺してくる

上高地の夕闇は一気に降りてきて時を止める


*

 

昨今のオーバーツーリズム 

上高地はマイカーで入れない

家族連れはバスに乗り換えるか、手前で駐車して散策する

観光地からそれたただ広いだけの公園にも観光客が迷い込む 

 山奥から何かがじっと見ている気配

 

*

 

北海道と同じように

標高の高い地域の春も一気に姿を現す

我慢していたかのように梅が咲いて

こぶしの白い色が追いかけてくる

桜は開花したと思ったら瞬く間に白とピンクの吹雪に変わる 

木蓮の大きな花びら 

アメリカハナミズキの賑やかな様 

 

ゴールデンウィークが近づいている

子どもたちがやってくる 

 

 

ゴールデンウイーク終盤

上高地へ向かうバス

大勢の子供が乗っている

 

急ブレーキ

運転手は何を見たのか

車を止めて外に出る

 

バスの前を横切った猿の群れ

足早に去っていく

取り残された猿と思ってみたものは

一人の男の子だった 

怯えたような目で見る 先はバスの中の子供たちだった

口元をゆがめ、

何か言葉を発したかとおもったら

その場に倒れ込んだ

 

止まっていた時が流れ始めた 

 

運転手は我に返る

何もなかった

何も見なかった

バスに戻り運転席に戻る 

先程まで騒いでいた子供たちは 

誰一人声を上げない 

 

バスが動き出した

取り付かれたようにアクセルを踏む

幅の狭いトンネルが口を開けていた 

 

梓川の少年

 

次の日

そのバスは川底にあった 

人の姿は消えていた

 

 

大捜索で一人の男の子が見つかった

バスの運転手の前で倒れた男の子

でも発見されたのは梓川ふるさと公園

信州大学へ救助ヘリで運ばれた

衰弱した身体

 

コトバにならない言葉

譫言のように言葉が零れ落ちる

 

愛する家族への思い

彼は語り始めた

 

*

 

長く生きてしまったことに気付いた

 

*

鎌池の少年

 

 

鎌池

一周するのに30分も掛からない小さな池

白馬の近くにあるが

訪れる人は少ない

 

池を回っていると気付くこと

方向が分からなくなる

あちこちに樹海に伸びる細道

獣道か

子どもが行方不明になった話は聞いたことがない

そもそも子どもが来ること自体が珍しい

 

 

ある日

透明で宝石色の池に 

子供の遺体

表情は穏やか

 

少年は時を超えて

会いたい人に会えたに違いない 

 

少年の遺体が引き上げられると 

親子連れの猿影

樹海に消えていった 

 

 

<記憶の断片 > ふるさと公園の闇:梓川アカデミア館



 

こんな公園

以前は無かった

使い道のない土地で強欲が悪知恵を働かせていたら 


世間に合わせて”ふるさと公園”

公園にするのに国から助成金がもらえて 

21世紀事業と言えば格好よく響く

 

この辺は日当たりの悪い北と東に向いた斜面のどん詰まり

誰も近づかない 

使い道が無いから公園?

現代の合理主義かな

あるいは強欲の錬金術? 

 

ここに最後逃げ込むしかなかった人がいたら?

この辺の木や石や土を掘り起こしたら ?

封印されていた約束が蘇ったら?

 

時が再び刻み始めた 

 

 *


ふるさと創生事業に群がる強欲

梓川アカデミア館

梓川ふるさと公園

眠っていた呪いが目を覚ました


*



<記憶の断片 >松本平

 




 

落武者の中に

子連れの落ち武者がいた

子どもには無理と言われても

塩尻峠を越えた時は大人たちも歓喜した

 

 松本平

一見すると緑豊かで平穏だった

 敵対する者はいる筈がない

落武者の列を遠目に見る村人

子ども 女 老人

警戒心は両方にあった 

その内、村の子供らの笑い声が緊張を解いた

落ち武者の子供らも村の子供と遊び始めた

 

村人の迷惑にならないように

落ち武者は山奥に入る

山の神のことを知る人はいなかった 

村人が落ち武者を呪いの地に追いやったことになった 

悪意は無くてもだまし討ちの形になった

山の神は子どもだけには手を出さなかった 

 

<記憶の断片> 消える子ども

 




 

子どもが突如視界から消える

普通の事件事故のニュースのように流れてくる

やがて無事生還できる子もいれば

戻ってこれない子もいる

時のはざまに落ちた子供は存在を伝えることが出来ない

 

今まで聞こえていた子どもの声は本当は何だったか

其時は既に手遅れだったのかも知れない

時空のゆがみが表出する一瞬だったに違いない 

 


時間の狭間(はざま)に子どもが落ちる

大人が目を離した瞬間に

子どもの時計が回り始め

歪みが出来る

時の狭間が姿を見せる


夢中な子どもが狭間に吸い込まれる

母親の声が届く

歪みが消える


もし母親の声が届かなかったら

子どもは遠い旅に出る


子どもの夢中は理屈の先にある

その声を聞くことできる母親だけが

子どもを救うことが出来る


*




<記憶の断片> 落武者の子ども



 

 落武者

 

戦いの場からその家の主だけが落ちていくのではない

一族郎党の夜逃げのようなもの

幼い子どもが問題になる

預ける先が見つからなければ

連れて行くのだが

足手まといになるのは分かっていること

子どもの不幸を想像するのは難くない

 

信州に続く道端に小さな地蔵が多いと気付く人もいる

 

 

*

<記憶の断片> 親知らず子知らず

 


 


親知らず子知らず 

 

 

京を追われて

越の国に逃げる

阻む海岸線に 

こういう名前が付けられている

 

 

子どもの声が波の音でかき消される

海から子供の声が聞こえてくる

錯乱する母親

 

夕闇が口を開けている

子どもの声を振り払う

足を速める

襲い掛かる波しぶき

波しぶきの先が子どもの小さな手に変わる

母親の足が止まる

倒れ込む

 

 

朝、

目を覚ます女

波は穏やかになっていた

目の前の山を越えれば信州

松本平に導く道に入る

南ルートを逃げた一族に合流できる 

 

 

遠くから子どもの声が聞こえる 

子どものぬくもりが蘇る 

持っていたものを捨てて

海に向かって歩き出す 

大事なものが沈んでいる海へ 

 

 

本当に大事なもの

海の底で子供の手に触れて 

心が救われるのが分かった

子どもの声が女を包んでいた 

 

 

<記憶の断片> 富山湾の青い光




 

春が近づいて

ホタルイカ漁 が活発になる

夜に出ることもある

 

その日の夜

光の中に少し様子が違うものがある

深い青色

光は抑えられている 

ほんの一瞬

目が合ったような錯覚に襲われる 

 

漁師は漁を早めに切り上げて

家族のところへ急ぐ

 

漁からいつもより早く帰った父親に

何時より強く抱きかかえられた子は

嬉しくて思い切り抱きしめ返したが

はっとして力を抜いた

 

子どもにしか分からない

深い悲しみが伝わって来た

 

涙をためた子を見て

父親は満足そうにしたが

同時に不安な気持ちに襲われた

 

漁師は夜の漁を躊躇うようになった

夜の富山湾

観光客相手の漁師しかいなくなった 

 

*

<記憶の断片> 鎌池

 


 


鎌池に沈む少年は

生きているかのように美しく

目を見開いていた

視線の先は彼方の記憶を留める

光に満ちた世界だろうか

 

 

少年の水死水難事故の話は

直ぐに広まって直ぐに収まった

弔いのために山奥に入った僧侶は

そのまま帰ってこなかったが

探しに行こうと言う人はいない

少年のことはタブーになった

鏡池に近づくこともしない

 

鎌池は、温泉客、観光客、風景写真家、昔も今も、来る人は限られている

ときどき道を間違える人が出て騒ぎになる 


村人の誰も見ていないのに

少年の声は 全員の耳に残っていた

 

子ども連れの観光客が来ると

耳を澄ますようになった

 

 

 

<記憶の断片> 児童公園が閉鎖された

 


 

 

「子どもの声がうるさい…」 

児童公園が閉鎖された

保育園が廃園に追い込まれたところもある

 

それは本当に子どもの声だったのか

 

強欲には子どもの姿を見ることが出来ない

無駄に遊んでいる土地に見える

強欲は連鎖する

強欲が子供の声を奪う

 

子どもの声を返して欲しい

子どもの声を閉じ込めるな 

 

その町も少子化が進む

少ない子供を閉じ込める 

 

 子どもは大人になって子どもを裏切る

 そういう大人を見ている山奥からの視線に気づかない

でも

子どもの声が

夜になって少しずつ近づいてくる

子供と言う過去を捨て大人に

夜の闇が

子ども声を届ける 

それはいつかのあなた 


*


名誉教授のクレーム

子どもの声がうるさい

この老人は子供の頃は信州という地に憧れていた

勉学で望みを叶え

更に信州に移り住み望みを叶えた

公園近くにマイホームも



本当に子ども声が煩かったのか

押し殺して来た遠い自分の中の心

もっと自由だった本当の自分を思い出したのか

自分の大切な心を鎮めるためのクレームか

其れさえも本人は気付いていない


*


公園は閉鎖され

洒落た住宅が立ち並ぶ

住人が過去の話を知ろうが知るまいが

やがて

住人の心のドアをたたく子ども声が訪れる

それは

公園で遊んでいた子どもたちのものか

住人となった人の過去から訪れるものか

 

*

<記憶の断片> ホタルイカ




 

信州もまた有数の観光地の一つ

訪れたことのある人も少なくない

進学進級を前にした3月は少人数の旅行が多い

 

興味本位でスーパーに入ると並んでいる食材の豊富さに驚くかもしれない

物流網の発達で日本中のものが並ぶ

都市部のスーパーと変わらない

 

関東、東海、北陸の近海物が鮮度良く並ぶ

その中にホタルイカが並ぶ

ホタルイカを好む人なら気付くこと

 

ふっくらと大きさも形も、何よりも鮮度がいい

どうしてこの信州の山奥で?

わざわざ選ばれて運ばれてきたような

何となくの違和感 

 

すると横から手が伸びてきて

パックを買い物かごに収める

無言無表情で去っていく老人

 

人ごみに消えるのを待って

漸く我に返る

 

子供の頃の感受性が蘇る

小さなささやき声

 

スーパーの外に出る

夢中で買った信州の食材を使ったお土産用の菓子類

中に手にした記憶のない1パックのホタルイカ

 

明朝の帰りの列車の時刻を確認する 

今どきは何もかもスマホ

 

 


 *



<記憶の断片> 戦争が奪うもの



 

誰にも子どもの時代があった

 

発声できたかどうか分からなくても

子どもの心、子どもの声を持っていた

 

大人になる

成長する 

自分を殺すことなの?

 

子どもの声が騒音になる

 

世界中で戦争がやまない

今でも 

ウクライナ、ミャンマー、アフガン、ガザ、 イラン、

子どもを殺す大人たち

黙って見ている大人たち

 

時代も場所も状況も違うから混同しないように

知ったか爺が切り捨てる

無表情のこの老人は恐らく自分の子供時代を真っ先に切り捨てた 

 

何も変わっていない

何も変わることが出来ない 

 

 *

 

強欲を成長させ、衝突させ、多くのものを破壊する


強欲が恐れるものは、素直な心、人間の心


それを持つのは今は子どもしかいない


*

 


 

 *



<記憶の断片> 口を塞ぐ沖縄

 


 

 沖縄

洞窟に逃げた

声を上げる子ども

聞き耳を立てるアメリカ兵

口を塞ぐ大人

子どもの声が消えた 

 

邪悪は兵士の顔を借りて言う 

子どもの声を消したのはその子の母親だ

火炎放射器のレバーを引いた


*

 

<記憶の断片> 落武者人形

 

 


 

 落武者

一族郎党

 

逃げ延びる一団

 

子どもの声がかすかに届くが姿は

女たちの辛い表情

旅の疲れだけではない

人形のようなものを背にしている

 

足手まとい誰かが口にして

子どもの影が消えた

 

声だけが耳に残った

 子どもの声を人形に託した

 本当に大事なものを間違えている

大人にも言葉にできないこと

何処で間違えたかと言う疑問を

空腹と疲労がかき消した

 

<記憶の断片> 山の神と祠



 

 

山の神

 

最初は山歩きをしていた人が

奥まった場所で道に迷って

目印に石を重ねただけだった

 

 あちこちに小さな目印

夜になると役に立たない

 

丁度、奥深い山の中央、登りと下りが交差する場所がある

ここを間違えると帰れなくなる

まるで、この世とあの世の境界のようだった

 

誰かが帰れなくなった魂を弔うように

小さな祠を作った

みすぼらしくても

道に迷ったものには光り輝く

 

誰もが手を合わせるようになった

誰となく山の神というようになった

 

 

山は高さより深さが怖い

平坦に見えて安心して深く入ると帰れなくなる

 

親子連れは平坦さに油断する 

 

 小さな祠に子どもの名前が書かれるようになった

 

古くかすれてしまった名前の上に新しい名前が書きこまれる 

 

 

信州の山は今も高く美しい

登山を楽しむ者たちの事故があるとニュースで話題になる

 

高山を取り囲む森や林の奥深い迷路

ニュースにもならない

信州の森には小さな祠、小さな地蔵があちこちにある

一つ一つが子供を守ろうとしている 

 

醜い大人たちが森を破壊し、祠も地蔵も重機で歯化するまでは 

 

 


<記憶の断片> 少年の記憶

 


 

 謎(なぞ)

 

 記憶をたどっても分からないことが色々ある

その一つが

上高地の少年と鎌池の少年

同じ人物なんだろうか 

上高地の話はリアルだけど

鎌池は 情緒的、幻想的、曖昧でどこかべ世界の話に聞こえる

でも時空のどこかで繋がっているように感じる

 

そして、

未だ明かされていない物語があるように。 

 

 *

<記憶の断片> 自己矛盾

 


 

 謎(なぞ)

 

子どもの姿が見えないと必死で探す親

一方で

子供が訴えている声に 耳を傾けない親

 

 本当の愛を奪うかのような強欲の正体は何だろう

 

人は社会の入り口に立って

大人になろうとして

代償として一体

何を差し出しているのですか

 

 子どもの声を閉じ込めることですか?

 

*


子どもの声が不都合なものの正体は? 

 

 *


成長して失うと言う自己矛盾


*


答は誰でも知っている

人が戦い抜くために

文化遺伝子を取り込んできた


人の敵はもういないのに

文化遺伝子は自己増殖を止めない

人は既に手繰られる存在


*


この矛盾に気付く機会を与えられても

気付くのは子どもだけ


*

<記憶の断片> 小さな地蔵

 


 

 落武者

京を逃れて信州に向かう

北回りは海に沿って

南周りは木曽を抜けていく

盗賊の多い南周りは男ども

比較的落ち延びやすい北回りは女どもと子どもら 

信州の地で落ち合うことを誓って

旅に出る

 

信州には石標や地蔵が多い

末の時代になっても再会を果たしたいと言う思いだ

風の音、川のせせらぎ、鳥のさえずり

小さな地蔵は耳を傾けている

積んであるだけの石たちも耳を澄ましている 

 

*

<記憶の断片> ペット

 

<記憶の断片>  

 

ペット

ペットは子どもの代用?

支配する対象としてペットを見る人

素直な純粋な気持ちの存在として見る人

ペットと接することで自分が失ったものに気付く人もいる


 

人は自分たちが長い時間をかけて失ってきたものに

本当に気付けるだろうか 

その気付きは行動を変えるだろうか

 

生きるため、家族を守るためと言って

自分や家族の大事なものを置き去りにしてしまった

生きるためと言って、人を殺し、子供まで殺している

 

自分だけはペットで癒されているから大丈夫なのか

 

 *

 

子どもの声が届かない本当の理由は分かりますか?

 

<記憶の断片> DNA

 

<記憶の断片>  

 

 

DNAが作り上げた虚構

安心が欲しいと言う無限ループ

DNAの奴隷になった人間

 

唐突に松本清張の鼾(いびき)を思い出すかもしれない 

 

 *



<記憶の断片> メギス

 

<記憶の断片>  

 

 

深海魚のメギス。正しくはニギス(似鱚)。白身魚で形も味もがキスに似ているのでメギス。北陸の特産と言ってもいい。目が大きいので目ギスとか。

不思議なことに、このポピュラーとも言えない奇妙な魚が信州に運ばれてくる。寒さが抜けきらない春先。新鮮なメギスが当然のように、まるで里帰りをするかのように、信州の山奥に運ばれてくる。

ローカルスーパーの鮮魚売り場。メギスとホタルイカが隣合わせに並ぶ。微妙な空気感に気付く人は少ない。多くの人には、無感心なエリア。

しかし、一部の人は争うように数パック纏めて買う。取り付かれたような表情の老人たちだ。老人たちは、自分が今いる場所も時代もはっきりしない。子どもだったころを思い出そうとしていることだけは分かる。

今年も塩の道を伝って旬のメギスが運ばれてきた。

海の底でメギスが見たもの

大きな目に涙が浮かんでいたのは悲しい話だったに違いない


 *


<記憶の断片> 山の神



<記憶の断片>  

 

山の神の悲しみ

山の神の怒り



人が山へ入る理由は様々

人は山を恐れていたし、大切にしていたし、感謝もしていた


強欲は奪うことしか考えない

強欲には感謝はない

用済みと思えば山に捨てて知らん顔


強欲は年を重ねて動けなくなった猟犬を置き去りにする

血のつながりが無い子供を置き去りにする

自分の親さえも山深く置き去りにする


山の神は一つ秘湯の悲しみを拾い上げ自分の背に担ぐ

山の神は怒りを胸にするだろうか

山の紙もまた悲しみとなって一体化する

怒りではだれも救えないことを知っている


*


森の樹木を切り倒して

太陽光パネルを並べる

人の道を迷うさまが見える

心を失った結果


森で動物や植物と遊んでいた子ども

社会人になって戻ってきて

木を切倒す


*

*



子どもの声を聞かずに自分の強欲を優先させた母親

母親の邪心が若い夫に入り込み非情の手を下した

この母親には涙を流す資格もない

母親こそが子殺しの真犯人


*


少年は突然の侵入者に驚いた

母親が連れてきた男の目論見は、しかし、瞬時に見抜くことが出来た

幼いながら家を守ろうと必死になった

少年の心配を母親に伝えたのは誰か分からない

少年が同居する祖父母だったか


愚かな母親は子どもの疑いを夫に伝えた

我が子の気持ちを軽んじるだけで済まないことに気付かない

子どもは何度も母親から裏切られていた


卒業式

子どもが集う最後の日

子ども声が届けられたかもしれない日

声は届かなかった


*


京都

不思議な場所

落武者の出発点

落武者と家族の葛藤

丹後は京都の奥

日本海へ通じる

富山ほど有名ではないが

ホタルイカが辿り着く


*


母親に狂気を蘇らせたのは

語られない理由があった

少年が命を落として漸く

母親の耳に子ども声が届き始めた


本当に大切なもの

母親は今

心の奥深くに

仕舞い込んで

溜息を吐いた


*


目次||


<記憶の断片> 散骨

 




散骨


月の夜

安曇野市

梓川の隣を流れる黒沢川

満開の桜が夜空に浮かび上がり吸い込まれる

人影は少ない


ここの桜を楽しむ人は地元の人

それも両岸をゆっくり往復して楽しむだけ

橋が渡っている場所では、橋の中央に立ち下流の行く末に目をやる


よる、桜の花びらを川にそっと落とす人がいる

桜の花びらの下に小さな骨

祈りと願いを込めて砕いた骨は小さな粒になっている


よく見ると

花びらを撒く人が他にもいくつか


犀川から信濃川

その向こうの日本海

桜の花びらと砂粒の骨が向かう先


昔、守ることが出来なかった子供を迎えに行く旅の始まり


小さな声が上がる


時が流れ始める


流転の再起動


しかし


PV

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