上高地
バスの車窓から林間に目をやると
木陰からニホンザルを姿を見せることがある
その暗い小さな影に一瞬サルでないものが混じる
気付く人は少ない
子ザルに見えた中に人の子供の顔
悲しげな視線が突き刺してくる
上高地の夕闇は一気に降りてきて時を止める
*
昨今のオーバーツーリズム
上高地はマイカーで入れない
家族連れはバスに乗り換えるか、手前で駐車して散策する
観光地からそれたただ広いだけの公園にも観光客が迷い込む
山奥から何かがじっと見ている気配
*
北海道と同じように
標高の高い地域の春も一気に姿を現す
我慢していたかのように梅が咲いて
こぶしの白い色が追いかけてくる
桜は開花したと思ったら瞬く間に白とピンクの吹雪に変わる
木蓮の大きな花びら
アメリカハナミズキの賑やかな様
ゴールデンウィークが近づいている
子どもたちがやってくる
*
ゴールデンウイーク終盤
上高地へ向かうバス
大勢の子供が乗っている
急ブレーキ
運転手は何を見たのか
車を止めて外に出る
バスの前を横切った猿の群れ
足早に去っていく
取り残された猿と思ってみたものは
一人の男の子だった
怯えたような目で見る 先はバスの中の子供たちだった
口元をゆがめ、
何か言葉を発したかとおもったら
その場に倒れ込んだ
止まっていた時が流れ始めた
運転手は我に返る
何もなかった
何も見なかった
バスに戻り運転席に戻る
先程まで騒いでいた子供たちは
誰一人声を上げない
バスが動き出した
取り付かれたようにアクセルを踏む
幅の狭いトンネルが口を開けていた
*
