親知らず子知らず
京を追われて
越の国に逃げる
阻む海岸線に
こういう名前が付けられている
子どもの声が波の音でかき消される
海から子供の声が聞こえてくる
錯乱する母親
夕闇が口を開けている
子どもの声を振り払う
足を速める
襲い掛かる波しぶき
波しぶきの先が子どもの小さな手に変わる
母親の足が止まる
倒れ込む
朝、
目を覚ます女
波は穏やかになっていた
目の前の山を越えれば信州
松本平に導く道に入る
南ルートを逃げた一族に合流できる
遠くから子どもの声が聞こえる
子どものぬくもりが蘇る
持っていたものを捨てて
海に向かって歩き出す
大事なものが沈んでいる海へ
本当に大事なもの
海の底で子供の手に触れて
心が救われるのが分かった
子どもの声が女を包んでいた
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